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描き方は人それぞれで自由。これは私の例

 

描く対象が何であれ、感じたまま思い描くことが基本、そう思います。技術的な基本は色々と参考になる図書が書店にありますし、今やインターネット上に公開されているものも多数ありますから、自分なりに調べると良いと思います。以下は私の制作過程のご紹介です。

顔を描く場合でも下書きもせずいきなり「目」から描き始める人もいますし、体を描く場合普通なら全体のバランスを考えた上で、頭を最初に描く人が殆どだと思うのですが、やはり下描きなしで「手」や「服」から描き始める人もいます。それでいてかなりのクオリティーなのですから驚きとしか言えません。私にしてみればそのような描き方はまるでアクロバットです。とても真似ができません。

私の場合は写真や人のイラストなどを参考にして自分なりにアレンジしたりすることが多いのですが、特に似せて描こうとはしていません。似せようとしても似ないというのが正直なところなのですが。

 

紙の上での位置決め(レイアウト、トリミング)は大切なので右図にあるような格子・ブロックとでも言うのでしょうか、線を入れています。(この格子・ブロックのことをグリッドと表現する人もいます。一部の画像編集ソフトではそのような名前でメニュー項目に含まれています)

 

この格子は参考の元にする写真にも入れます。注意しなくてはならないのは格子の縦横の比率は元になる写真のものと、描こうとしている紙のものと、どちらも同じにします。これが2つの間で違っていると、縦長になったり横長になったりして出来上がりの雰囲気が違ってしまいます。また、あえてレイアウトやトリミングを変更するのでなければ区分けする数も同じにします。格子・ブロックの形状は正方形が無難ですが、私は紙の縦横比も参考にして決めています。右図の場合は横長の長方形です。

 

さて、この格子の役割はというと、どの線(輪郭)がどの格子のどの位置にあるのかを判断する基準になるので、侮れないものです。描く対象が人であれ、物であれ、なかなか似ないとか形が違うというような不満を抱いたことはありませんか。こうした格子のような基準線を活用するとそうした不満が少しは減るかと思います。因みにこの格子の数を増やせば増やすほど輪郭や形の転写の正確性は上がります。ちょうどデジタル画像のドットが細かければ(解像度が上がれば)鮮明で綺麗に見えるようになるのに似ています。ですが、あまり数を増やし過ぎるとこれはこれで大変です。

 

特にリアリティーさを追求するのでなければ、このような基準線なしで自分の感性に任せて描くのも勿論良いと思います。

格子・ブロック状の基準線を入れています。これを利用してトリミングやバランスを検証したりしています。これとは別に顔の中にもにも線が入っていますが、目、鼻、口、眉などのパーツの位置決めや大きさを見るためのものです。こうした線と紙全体に入れた基準線との両方でそれぞれのパーツの位置決めをします。

 

このイラストはほぼ真正面の顔なので顔に中心線を入れて左右対称(シンメトリー)を意識しながら下書きをしています。ですが、人間の顔が本来左右対称の人は殆どいないという事実は皆さんもご存じでしょう。人間の脳が程良く補正しているので気づいていないだけです。ところが、こうした二次元で表現する場合は何故かほんの僅かのずれ・大きさの違いでも不自然に見えてしまうようです。これは後でお話しする「鏡像・鏡像反転」を試みてみると普通に見ている姿と、左右反転した時に見た姿とが何となく印象が違うものなのだということに気づくかも知れません。

いよいよ細部の描き込みに入ります。私は鼻筋や口、顔の輪郭などから描き進めていきます。格子・ブロック状の基準線は細部の描き込みが進むにつれ消していきます。下書きが済んだら一気に消しても良いのですが、後で垂直・水平を検討しなくてはならない線やオブジェクトがあると分かっている場合や、背景を描く際に垂直・水平を出さなくてはならない場合もあるかもしれないので、私の場合は徐々に消していくようにしています。

 

「終わり良ければ全て良し」と言われますが、私はスタート時に何か気に掛かることがあって、それがずっと後を引いていると完成した時にも何か納得のいかない気分になることがあります。ですから一連の制作時間でこのスタート時が一番気が重く書き進むスピードも遅いです。終わりを良くするには始めがやはり肝心ですね。

 

この段階では3Bや4Bといった濃度の鉛筆を使います。濃度は後で徐々に濃くしていきますが、いきなり濃い鉛筆でしっかりと色づけしてしまうと明るく修正する必要が出た場合大変な思いをすることになりますし、最悪の場合修正しきれないこともあります。

 

 

鏡像反転

 

私達が鏡で見ている自分の顔は左右が反転した鏡像反転の顔です。写真などで自分の顔を見た時、何か違和感を覚えたことはありませんか。前述のように人の顔は左右対称の人は殆どゼロと言って良いほどだと思っています。

 

これを利用することによって人間の目のいい加減さを検証できます。紙が画用紙やケント紙のように薄ければ、裏返しして透かして観るという方法で、自分の下書きがどれだけ正確性があるのか試してみることをお勧めします。できるだけ早い時点で行うと良いでしょう。下書きの段階が一番です。私は制作途中でも時々検証しています。アナログな方法ですが結構役立つ方法だと思います。

 

裏返しして透かして観た時、なにか違和感が感じられた時は、その作品・イラストのどこかのバランスが取れていないことが疑われますので、それが何なのか理由を追求し少しでも解消しておくことをお勧めします。スキャナーやデジタルカメラで画像データとしてパソコンに取り込み、パソコンの画像編集ソフトウェアなどで鏡像反転できれば良いのですが、環境が揃っていなければできません。ただ、こうしたソフトウェアが使えると部分的な変形・大きさの変更などを手軽に試すことができるので、その結果を描いている作品に適用できるという便利さがあります。

 

下図は反転した鏡像反転の顔を参考にしながら細部を調整した後のものなので、何が不自然なのかを説明するにはあまり適さないかも知れないのですが、それでも右と左とでは何となく印象が違うと感じないでしょうか。

描き込みをしながら基準線を消すと同時に顔の輪郭線も消していきます。浮世絵のように輪郭線を活かす手法もありますが、例えば漫画などがそうですが、少しでもリアリティーさを出したい場合は輪郭線を描いたままにしておくのは「不自然さ」を残します。

 

私達が見ている全ての物には輪郭線はありません。色の違い、濃淡の違い、明暗の違いなどの情報で私達は様々な物を識別している訳ですから、輪郭線のある作品は不自然に思えるのかも知れません。勿論この主張はあくまでもリアリティーさを求めるイラスト・作品を描く場合を言っているのであって、アートとしては浮世絵や水墨画など東洋の古い歴史画のように、それを一つの持ち味として表現したい場合、輪郭線を描く手法はそれなりの意味を持ちます。

髪の毛を描き始めていますが、元の写真では髪の毛の色は真っ黒の黒髪です。この作品では少しアレンジしてやや明るい色、例えば茶色や少し無理があるかも知れませんがブロンドなどをイメージしています。黒髪だからといって全体を濃い黒で描く必要はありません。皆さんの感性で髪の質感を表現すれば良いのです。

 

光を反射しているところ、陰になって暗くなっているところなどを見極めます。後々、完成時にどこを強調的に明るくしたり暗くしたりするかを念頭に置きながら制作します。

描き進むにつれて鉛筆の濃度を上げていきます。私の場合3Bから4B、(5B、6B、(8B、10Bと濃度を上げることを前提に、強調する部分を予測していきます。いきなり一気に濃くするようなことは殆どしません。

 

※( )のものは必ずしも使用するとは限らないものです。

 

途中、私が注意していることは「白く残す部分は極力汚さないこと」です。例えば黒い瞳の中の星や白目の部分などです(最終的には白目の部分もうっすらと色をいれますが)。

 

絵の具で作品を描く場合であれば後でホワイトを入れたり、明るい色を上から描き足すことができますが、鉛筆画ではそれができません。あくまでも紙の白い色を使用します。実際、ホワイトを使って瞳の星や髪の毛の明るい線を表現してみたことがありましたが、誰が見ても不自然なものになりました。

描く順序は私の場合一定ではありません。普通なら人物を描いた後に背景を描く例が多いのも事実ですが、この作品では人物を描いている途中で背景を描いています。

 

理由は2つ。1つは最後に描き込むパーツは目と決めていますが、その前が髪の毛と決めたことです。髪の毛を描いてから背景を描くより背景を描いてから髪の毛を上描きするほうが楽なのです。もう1つは私が右利きだということ。右図を見ていると何となくお気づきだと思うのですが、紙の左から右へと描き込んでいくほうが紙を汚す危険が減るからです。紙と掌の間にティッシュペーパーやボードを敷いてどんなに注意していても、小指の付け根の辺りを紙に接触させている以上そこには圧力が掛かりますから間に挟んだ物に鉛筆のグラファイトが付着し、更にそのグラファイトが紙を擦れているうちに他の場所を汚すからです。私は掌を空中に浮かせたまま描写できないのでこのようなリスクを可能な限り減らすための苦肉の手段と言わざるを得ません。汚れたと感じたらあまり汚れが濃くならないうちに、頻繁にプラスチック消しゴムで綺麗に消しています。

 

 

手、指を描き始めました。私は実は顔などより掌(指・爪など)や足(足首より下のところ)のほうが苦手です。個人的には作者の技術レベルを推し量るには顔の描写より手足の描写の内容を見るほうが確実のように感じています。

 

私は指がごつくなりやすい傾向があり、男性や老人ならば良いのですが、女性の手や指には苦戦します。若い人を描く場合手足は顔と同じくらい女性や男性の性差を表現すると感じています。

 

 

大分制作が進行しました。紙風船を優しく両手で持っている感じが出ていると良いのですが、いかがでしょうか。

 

この作品では2か所にポイントを置いています。1つは「目」、もう1つは紙風船を持つ「手」です。いかに輪郭線を極力使わずにそれらしく見せるかが大切なのですが、やはり自信がありません。

 

 

いつもそうとは限りませんが、最終段階として目を描き入れ、この作品では「画竜点睛」を気取っています。

私はこの段階が一番好きです。細かな微調整(濃度の調整、コントラストの検証、汚れの排除など)を行います。ちょっと濃くしてみたり、線を一本足してみたりするだけで雰囲気が変わることもあります。

 

こうしてようやく一応完成です。一応というのは、どうやら往生際が悪い性格のようで、完成したとしてサインを入れた後でも、数日の間を開けて微調整することもしばしばあります。定着液を吹き付けた後でも微調整をすることもよくあります。数ヶ月後、数年後にまた手を入れることもあります。

 

そう考えると私の場合いつが完成なのか分からないです。

鉛筆画 Size : B4
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